Christmas tree

SEASON

Christmas tree

 毎年同じ場所に設置される、大型ショッピングモールの大きなクリスマスツリー。
 その下で道行く人を眺めながら彼を待っているのが、ここ数年私のクリスマスの過ごし方になっている。
 ツリーの前で待ち合わせをしているカップルはたくさんいる。待っている人は、携帯などを操作して時間をつぶしながらも、どこかそわそわと落ち着きない。
 そんな時に待ち人が現れたりすると、皆とても嬉しそうな表情をする。それを見ていると、何となく私も幸せな気分になる。それと同時に、少し哀しくもなる。
 今度こそ、彼が来てくれればいい。
 毎年、このツリーの下で私は待っているのに、去年も、その前も彼は来なかった。
 その事に怒っているわけではないけれど、人気のなくなったツリーの下で独り二十五日を迎えるのは、とても哀しかった。
「飽きもせず、よく待てるな」
 不意に降って来たその声に顔を上げると、どこかで見た事のある背の高い男性が、私を見下ろし呆れたような表情をしていた。
「ああ、あなたでしたか」
「もういい加減諦めたらどうだ? そうやってしがみついていたって、君にはもうどうにも出来ないだろう?」
 優しげな顔をしている男性は、優しい口調で、それでもきっぱりと言う。この男性は、去年も、その前も私にこうして忠告をしてくれていた。
「でも……どうしても待ちたいんです」
 男性は去年と同様、諦めたようなため息を付いた。
「去年も、その前も『待ちたい』 の一点張りだったね。この世に未練を残した魂の行く末がどういうものか、君は知っているかい?」
「知っています。天国にも地獄にもいけなくなって、やがて悪霊に取り込まれるか、消滅してしまうんですよね?」
 この世に未練を残した魂。それは、そのまま私自身を示すもの。
「それでもいいんです。私は待ちたいんです。彼と約束したから」
 例え、輪廻から外れ永遠に生まれ変わることができなくなったとしても。
「彼が……」
 私はそこで言葉に詰まった。

 彼が、来た。

 最後に会ったのはもう何年前になるだろう?
 彼は以前よりもたくましく、すっかり大人の男性になっていた。

 視界の隅に、男性が軽く首をかしげ、それから私の視線を追うように顔を上げたのが分かった。
「あれが彼かい?」
「……はい」
 魂だけになっても、声は震えるし涙は出るものなのだと知った。
「人間は、死んだ者を一生思い続けることが出来るほど強くはないんだよ。悲しみを忘れなければ、生きてはいけないんだ」
 そう言った男性の視線の先には、彼と、そして彼の恋人らしき女性の姿があった。
 お互いに歩調を合わせながら歩くその姿は、本当にお似合いのカップルだった。
「それで、いいんです」
 涙が止まらなかった。でも、それは哀しいよりも、嬉しいという感情からくるもの。
 私の命が長く続かないことは分かっていた。それでも彼は私を確かに愛してくれた。
 強く、それこそ泣きたくなるくらい強く。
 頑なな強さは、いつか折れてしまう。私の命が病室で削られているのを見ている彼は、病人である私の方が心配してしまうほど痛々しかった。
 だから、私は彼にお願いをした。
「私を愛してくれたように、他の誰かを愛することができたなら、一緒にここに来て欲しいと、そう約束したんです」
 彼は彼女と話しながらツリーの前まで来ると、足を止めツリーを見上げて呟いた。
「やっと……ここに来ることができたよ」
 彼の目は私を映してはいない。だけど、その言葉が私に向けられているのはよく分かった。
「僕は……彼女と、精一杯生きていく。君に、胸を張って報告できるように」
 隣に佇む彼女の肩を抱き、ツリーを見上げる彼の目には、強くしなやかな意志が宿っていた。

 ありがとう……覚えていてくれて、ありがとう……涼一さん……

 涙で街のイルミネーションがにじんでいく。その光は次第に強さを増して広がり、やがて私自身をも包み込む。

「さあ、いい子だ。君も、君自身のあるべき場所へ行こう」

 男性の声が優しく響く。

 ありがとう……天使、様……

 暖かい光に包まれながら、私の意識はその光に溶け込んでいく。

 メリー・クリスマス……

 完全に溶け込む直前、優しい囁きを、聞いた気がした―――。



  

  



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