Independent research

SEASON

Independent research

 じりじりと照り付ける夏の太陽。
 ヒートアイランド現象により、止まることを知らない猛暑。
 そんな外の世界とは無縁とばかりに、適温に保たれた一室。
 そこにいるのは神妙な面持ちをした三人の少女たち。


「それじゃ、調査結果の報告します。まずはあたしからね」
 くりっとした大きな目の愛らしい少女が、おもむろにそう言ってノートを広げる。
「こっちは鎌倉時代に中国から禅宗と共に渡来したものだって。武家社会から庶民に浸透したのは江戸時代くらい」
「へえ。こっちは南アフリカから中国、ヨーロッパ、アメリカと伝わって、日本に入ってきたのは十七世紀半ばらしいよ。えっと……隠元禅師が中国から持ち帰ったといわれています、だってさ」
 先ほどの少女と打って変わって、切れ長の目をしたボーイッシュな雰囲気の少女がルーズリーフに目を落としながら言う。
 すると、ふちなしのメガネをかけた利発そうな少女が、勝ち誇ったような笑みを浮かべてレポート用紙を手にする。
「こっちは平安時代からよ」
 その瞬間、先の二人の表情が若干険しくなる。
「こっちは紀元前六千年くらいからエジプトにあんだぞー?」
 ボーイッシュな少女がそう言うと、大きな目をした少女も口を尖らせて続ける。
「こっちだって、夏目漱石が賞賛してたんだよー?」
 二人の言葉に、メガネの少女はついっとメガネをずり上げ、同時に口角を吊り上げた。
「甘いわね。こっちは渡来したものじゃなくて、正真正銘日本発祥のもの。しかも、清少納言が『枕草子』 の中で、高貴で清楚なものとして賞賛していたんだから」
 その言葉が終わった瞬間、二人は大きくため息をついた。
「分かった。完全あたしたちの負けー」
「今日は私の、って事でいいかしら?」
「おっけー。で、明日は……あたしの、だよね?」
「ちっ……やっぱそうなるかぁ」
「鎌倉時代と十七世紀じゃ、鎌倉時代のが古いでしょー?」
「そうね。『日本で最初に存在した時代が早い順』 で決めるってことだったし。まぁ、最終日でもいいじゃない。やることに変わりはないんだから」
「それはそうだけどな……ま、いっか」
「じゃ、決まったところで、実際作ってみましょう」
「はーい!」
「うっしゃ!」
 三人は同時に立ち上がり、ノートを片付けたりカバンを背負ったりと、それぞれ支度を始めた。
「お母さん。材料買いに行ってくるー」
 少女の大きな目が、キッチンに立つエプロン姿の女性に向けられる。振り返った女性は少女にそっくりな大きな目を細め微笑む。
「はい、いってらっしゃい。お昼のカレー、もう少しで出来るから早く帰ってらっしゃいよ?」
「はーい。いってきまーす」
 そんな少女の後を、メガネの少女とボーイッシュな少女が母にお辞儀をしつつ付いていった。

「学生はいいわねぇ……夏休みあって」
 タンクトップに短パン姿でリビングに出てきたのは、やはりぱっちりとした目が特徴の妙齢の女性だった。
「お姉ちゃん。もうちょっとちゃんとした格好しなさいよ」
「いいじゃん。たまの休みくらい、楽にさせてよ」
 先ほどの少女の姉である女性は、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターのペットボトルを取り出した。
「優花のお友達が泊まりに来てるから言ってるんでしょ」
「だから、出かけてから出てきたんじゃん」
 ミネラルウォーターを注いだグラスを持ちながら、姉はさっきまで妹が座っていたリビングのソファに座る。
「あの子たち、何やってたの?」
「夏休みの自由研究らしいわよ。鎌倉とか平安とか言ってたから、何かの歴史についてじゃないかしら?」
「へえ……」
 グラスの中身を飲みながら、姉は妹が置いていったノートに目を落とし、
「……っぷ!」
 危うく吹き出しそうになったものを飲み込んだ。
「……か、母さん、これ見てよ〜」
 軽く咳き込みながらノートを突き出す姉に、母がエプロンで手を拭きながら歩み寄る。
「確かに『自由』 研究だけどさぁ……」
 その言葉に怪訝な顔をしながらノートを覗き込む母。

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自由研究のテーマ:日本の風物詩(夏)  三大風物詩を調べる
 ・水ようかん  (私)→鎌倉
 ・スイカ    (あきら)→17世紀
 ・カキ氷    (さえ)→平安
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 大人二人が大爆笑している頃、少女三人は炎天下の中、カキ氷のシロップを何にするかという話題で盛り上がっていたのだった。 


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注釈という名のあとがき

 このお話にある『スイカが日本に入ってきた時期』 に関して。
 スイカは十七世紀よりももっと前に日本にあったのでは、という説もあるようですが、話の都合上、十七世紀半ばという説を使わせていただきました。
「違うじゃねえか!」と思ったスイカ研究家(そういう人がここを読むか?という突っ込みは置いといて)の皆様に怒られる前に言っておきます。

 最初、『夏の風物詩』 というテーマで書こうと思い色々調べていたのですが、「夏目漱石は東京の「越後屋若狭」の水羊羹が好物だった」とか、「緑の地に黒い縞模様の現在のスイカが広まったのは昭和初期以降で、それまでは黒皮、無地皮が一般的で、「鉄カブト」とも呼ばれていた」とか、「清少納言は「枕草子」の中で、『削り氷にあまずら入れて、あたらしき金まりに入れたる』(甘いシロップをかけた削り氷が銀の器に入った涼しげな様子は実に優雅である)と賞賛していた」とか、ちょっとした豆知識を得ることができて、結構面白かったです。(で、結局『自由研究』 というテーマになってしまった)
 日本の歴史の中ではカキ氷が一番古かったというのは、ちょっと意外でした。ストロベリーとかブルーハワイとか、外国モノっぽいイメージがありましたし……。

 しかし、書き終えて思ったことは、これって実際自由研究のテーマになるのかなぁ、ということでした(^^; (自由研究は、文字通りやるやらないも『自由』 だったので、一度もやらなかった奴)


  

  

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