プロローグ
惑星エリュシオン。
遠い昔、戻ることの叶わぬ永い旅の末この星にたどり着いた移民たちが、『永遠の平和を約束された楽園』という意味で名付けた惑星。
緑豊かなこの惑星に、その名に相応しい国を作り、やがて人々にとって本当の楽園となる。誰もがそう信じて疑わなかった。事実、建国から約三百年で、国家としても文明としてもエリュシオンは驚く程の成長を遂げた。
しかし、その楽園はあまりにも脆く、儚いものだった。
三百年という人類にとって長く平穏な時代を経ると、人々はいつしか傲慢になり、人類が幾度となく繰り返してきた過ちを犯す事となる。
何の為の移住だったのか。何の為の『楽園』だったのか。
それを問う者も気付く者も、全て戦争という時代の波に飲み込まれた。
争いはまた新たな争いを呼び、憎しみを増大させ、人々を、そしてエリュシオンの自然さえも疲弊させた。
建国から約五百年。移民たちは、エリュシオンの豊かな大地と繁栄を極めた文明、その両方を失う事となった。
原因は何だったのか。何故、止めることが出来なかったのか。
今となっては、それを知る者もいない。
現在――エリュシオン星暦六六三年。
大地のほとんどが砂漠と化したエリュシオンには『国』というものがなく、一部の権力者が自治区として領地を治めていた。
時に残り少ない緑の土地を巡って、また時に失われた文明の恩恵を受ける為に、残された遺跡を巡って、それらは未だ争いを繰り返していた。
終わることのない争いの輪廻から、抜け出すことの出来ぬ人間たち。
それでも人間は、今日という日々の中で争い、生き抜き、そして死んでゆく。
砂塵の舞う、この『楽園』で――
|
|